「ロボット時代の創造」
今月開催されたZuken Innovation World 2015は、国内外の多くのお客様にご講演いただき、かつてない来場者数となりました。ロボットクリエーター 高橋氏による40周年記念特別講演では、遊び心をもったクリエイテビティの大切さを、創ったロボットの活躍や裏話も含めてお話いただきました。その一部をご紹介します。
はじめに
「ロボット時代の創造」というタイトルは私がずっと使っているタイトルですが、「ロボットを創ることで新しい時代を創っていきたい」という思いを込めてつけたタイトルです。
設計図のないロボット制作
ロボットクリエーターという職業は私が勝手に考え出したものです。ロボットのことを考えて、設計・デザインして、実際に製作するという仕事です。
ロボットの部品の大部分はスケッチをベースに手作りしています。バキュームフォーム(真空成型)という方法で、木を削って木型を作り、そこに熱して柔らかくなったプラスチックの板を押し当て、裏から空気を吸うことにより木型に沿った形に変型させて成型します。こうやってできた部品とカーボンの板状部品を貼り合わせてロボットの体ができています。
また、量産する場合には、それをスキャニングしてデータ化し、調整した後で金型にして量産をかけています。
こうやって手で作っている理由は、いま流行りの3Dプリンターではまだ時間がかかり、ラピッドプロトタイピングで無くなってしまうことと、手でザクザク削ったり切ったり貼ったりしていった方が直感的にその場で作業ができるからです。また、手を動かすことは、そこから新たな発想が生まれることもあり非常に大事です。3Dプリンターや設計ツールは順調に進化しているので、徐々にそういう試行錯誤がより早くできるようになってくると思いますが、今はまだ手作業にアドバンテージがあります。
コミュニケーションロボット「ロビ」
デアゴスティーニ社より発売した、部品付属の組み立てマガジン「週刊ロビ」は、全身20個ほどモーターが入ったコミュニケーションロボットで、音声対話によって、歩き回ったり踊ったりします。さらに、テレビのリモコンの信号を覚えることができ、同じ信号を発してテレビの操作もしてくれます。
他にもお留守番や、目覚まし機能などの機能がいくつかありますが、テレビはリモコンでつけた方がよっぽど早いし、人感センサを利用した防犯機能は、いくら警告を鳴らしたところで、ロビごとひょいと持っていかれたらどうすることもできません。さらにまずいのは目覚まし機能で、彼の電池は1時間持たないので1時間たつと彼は熟睡してしまい、起こしてくれません。
実はこのロボットは、実用性を期待して買うロボットではなく、人とロボットが会話する、そしてこのロボットが身の回りの家電をコントロールしたりしながら暮らしの中に入る、そんな未来を体感できる商品だと思ってください。
そんな未来には、人と話をすることで、例えば持ち主のライフスタイルや好みなどの情報を蓄えて、それを基に家電製品をコントロールしたり、掃除ロボットを操作したり、興味がありそうな商品やサービスをレコメンドしてくれたり、ロボットを介して人とコミュニケーションしたりということができるのではないかと考えています。
ロボットというと、物理的な作業をして人の役に立つものだと思ってしまいがちです。ところが人型というのは作業には適していません。掃除をするならば円盤型で車輪で動く方が効率的に掃除ができ、人型ロボットが箒と塵取りを持って掃除するなんてことはあり得ないでしょう。
では、人型ロボットが何のためにいるのか。実は作業のためではなくて、我々人間がロボットに対して感情移入できる、擬人化してしゃべりかけることができる、そこにこそ人型ロボットの意味があります。
例えばスマホの音声認識機能を日常的に使っている方は少ないと思います。今まで音声認識を使わない理由は、音声認識がうまくできないからと思われていたのですが、実は既にかなり賢くなっています。
一方で、我々は家で飼っているカメとか金魚とか、それこそ熊のぬいぐるみとかそんなものにすらしゃべりかけてしまいますね。我々は相手が賢いかどうかということではなく、こちらが勝手にそこに命を感じられさえすれば、しゃべりかけてしまうのです。逆にいくら賢くても、スマホのような四角い箱にはしゃべりかけようと思わないわけです。
ということで、スマホとロビのようなロボットが一緒になって、そしてエボルタくん(※1)ぐらいのサイズになればしゃべりかけるのではないか。人型の端末がスマホの次の端末になりうるのではないかと、そんな奇想天外なことを言っていたら、それは面白い一緒にやろうという会社が現れまして、そして開発したのが “RoBoHoN(ロボホン)”です。
これは、胸ポケットに収まるサイズの電話です。電話をかけると通話できます。手に持ってしゃべるとなんだか不思議な絵ですが、スピーカーフォンにするともうちょっと普通かと思います。スピーカーフォンにするとあたかも相手がそこにいるかのように話せます。
通話の他にも、メールしたり、写真を撮ったりすることもでき、さらには、頭にフォーカスフリーのレーザープロジェクターが入っているので、写真や動画、地図などを天井や壁に映したりすることもできます。当然ロボットとして歩き回ったり喋ったりします。
こんなモノをシャープさんと一緒に作って来年前半に発売しようと思っています。
新しいプラットフォーム
この10年、いろんなイノベーションがこのスマホの中で起きていました。様々な面白いアプリやサービスが生まれ、活用されてきました。そしてこのスマホを発明したとも言えるアップルは、多くの面白い発明を生み出し、そこから巨額の利益を得ています。
しかし、そろそろ新しいハードウェアプラットフォームを創る時期ではないでしょうか。
というのも、スマホのアプリを開発していてもアイデアはほぼ出尽くしてしまっています。例えば健康アプリだけで世界中に何万あるかわかりません。運良く新しいアイデアを思いついて新しいアプリを作ったとしても、それで一昔前のような利益を上げることは難しくなっています。
そこでまったく新しいプラットフォーム、このロボットのような人型のスマホ(手・足・頭がついていて、プロジェクターがついていて、音声コミュニケーションをメインにできる)という端末を世に問えば、アイデアを持っていたベンチャーなりクリエイターなりが再びその才能を解き放ち、新しいサービス、新しいアプリが生まれてくるのではと期待しています。
ということで、人型のスマホを1人1台持つような時代を数年以内に実現したいと思っています。
これからのモノづくり
これはロボットに限らずのことですが、モノを創る時には、遊び心が大事だと思っています。今までの開発、今までの発明というのは、世の中にある不便とか危険を解消するために行ってきました。しかし、そういう問題もほぼ出尽くしてしまったわけです。特に先進国にいると、不便はおおかた無くなってしまっています。
一方で新しく生み出された産業、例えばTwitter、FacebookとかYouTubeとかは、何か既存の問題を解決するための手段ではありません。むしろ当初は遊びみたいなものだったのです。何の目的もない、何かの代替手段でもなかった。でもそれをインターネット上に公開していたら、「面白い」といろいろな人たちが使うようになり、人が使うようになった後から用途が生まれました。用途が生まれてたくさんの人が使うと、そこに広告を載せたり、ビジネスプランができあがってきます。
遊びのようなものが実は後になってから用途を生み、さらにビジネスにもなる。そしてまわりまわって人の役に立つ。この発想は、おそらく様々な分野に応用できると思っています。面白い遊び心のあるクリエイティビティを発揮するためには、経済的な余裕であったり、文化的な豊かさが必要であり、先進国ならではです。日本もこのような先進国型のクリエイティビティに移行していかなくてはいけないのではないでしょうか。
というわけで、ロボットに対してもそういう目で見ていただきたいのです。
いま人がやっている作業の代わりという発想だけでは、現状どうしても人件費や、人間の能力に追いつかないわけです。そうではなく、まったく遊びのように思えるかもしれませんが、新しいコミュニケーションの形、それがゆくゆくは人の役にたって、産業にもなりうるのではないかと考えています。
最後に
ロボットのことを我々ロボットの専門家ばかりが考えていると、遊び心が大事だと言いつつもつまらない方向にいってしまいがちです。ロボットが一人一台普及すると、ほぼすべての産業、どんなサービスでもどんな製品でも、そして日常生活でも必ずロボットと接点がでてきます。みなさんのそれぞれのご専門とロボットとを掛け合わせて、ぜひ新しいアイデアを生んでいただきたい。そうすることで、数年以内に1人1台のロボットと暮らす時代が、日本から世界にむけて広がっていくのではと思います。
ご清聴ありがとうございました。
株式会社ロボ・ガレージ LinkIconhttp://www.robo-garage.com/
(※1)エボルタくん http://www.robo-garage.com/prd/p_03/index.html